第130章 天秤
「――――もう……役に、立たないから……?足を、引っ張るから……?だから――――……リヴァイさんが、ロイを、呼んだんでしょう……?連れて帰れって……!」
「――――要らないわけがないだろう。落ち着けナナ。君は今まともな思考じゃない。――――いつもの君らしくない。」
「――――………。」
「リヴァイがロイに君を連れ帰らせるように呼んだのは事実だ。だが、要らないからじゃない。君を誰より愛しているから、命を削らせたくないからだと、なぜ思ってやれない?――――そんな受け取り方は――――リヴァイの愛情を見くびりすぎだろう。」
「――――役に立たなきゃ、優秀で、いなきゃ……私には、何の価値もない………。誰にも必要としてもらえない……。私は、頑張らなきゃいけない……。」
ナナは俺の話を半分にしか聞いていない様子で、小さく呟いた。
―――初めてリカルドさんとクロエさんに、恨み言を言いたくなる。
彼女をこんな風にしたのは――――名誉ある家柄に生まれ、がらんとした大きな屋敷の中で1人、長女だからしっかりしないと、愛されたいから頑張らないと、と自分を追い込み続けてきた少女の頃の記憶が根深い。
――――ロイも同じだ。
何より大切な姉を守るために、誰かを頼ることもせず自分を犠牲にする方法しか見つけられない。
孤独だった幼い姉弟の心は、一見健やかだが――――僅かにどこか歪なまま育っている。
「違うナナ。いい加減少女の頃の君から出て来い。君はちゃんと考えられる。家族のところで、養生してから戻って来ればいい。」
俺の言葉に、ナナが目を見開いてがばっと身体を起こした。