第130章 天秤
ナナの眠る部屋の扉を開けると、青白い顔でベッドに横たわるナナがいる。
腕に点滴の針を繋がれ、顔に血の気がない。
極度の貧血だと言っていた。
――――無理をさせたんだ。俺が。
俺も何を守るべきか――――、ちゃんと腹を括ろう。
ナナを泣かせても、たとえもう離別することになろうとも、リヴァイの言うとおり――――
ナナを本当に愛しているなら、彼女が身を削り続けることを、許してはいけない。
ナナのベッドの脇に腰かけて、慣れない左手でナナの頬をさら、と撫でる。ほんの掠る程度だったにも関わらず、ナナはその目をゆっくりと開いた。
「―――――エルヴィン……?」
「ナナ、起こしてしまったか?」
「ううん……目が覚めて、エルヴィンがいたから……嬉しい……。身体はどう……?」
「……今の君よりは、いいかな。」
「迷惑かけて……ごめんなさい……。でも大丈夫、点滴も打ってもらったし、きっと明日にはちゃんといつも通り執務に―――――」
「ナナ。」
「大丈夫だよ、私ほら、本当にエルヴィンの右腕になるんだから。こんなことくらいで――――」
俺の呼びかけに答えることなく、矢継ぎ早に大丈夫だと言う。ナナが、怖がっている。俺が言おうとしている言葉を。
「ナナ。聞け。」
「やだ……!」
「…………。」
「聞きたくない、いやだ。」
「――――大事な話だ。」
「――――私、もう要らないの……?」
ナナがその目に涙を一杯に溜めて、呟いた。