第130章 天秤
「そういう心の安定に一番効果的なのは―――――、愛する人との触れ合いだって言うよ。」
「触れ合い?」
「抱き合うと、ストレスや疲労って――――1人でいる時より回復するんだってさ。」
「――――姉さん、うなされながら何度も呼んでた。『エルヴィン』って。」
「――――………そうか。」
「もし義兄さんも少し回復してきているなら、リハビリがてら――――姉さんに会いに行ってあげてね。」
「ああ……そうする。」
「――――しばらく会えなくなることだし。姉さんの気持ちをちゃんと受け止めてあげて……?」
ロイとのこの会話に小さな違和感を覚えつつ、それが何の違和感だったのか突き詰める間もなく――――ロイは部屋を去ろうと扉に手をかけた。
「ロイ。もう一つだけ聞かせてくれ。」
「――――なに?」
「君がもたらしたこの情報を行使するとしたらその時は――――わかっているのか?君は―――――。」
「奴らの道連れだね。」
「そうだ。」
「己の保身しか頭にないあいつらは、まさか僕が自分に不利になるこの情報をリークするなんてことはないって踏んだんだ。」
「――――………。」
「――――上等じゃないか。僕の覚悟を甘く見た奴らに、一泡吹かせてやる。」
ロイは強い眼差しで、部屋を去る直前―――――不敵な笑みを残していった。その顔はクロエさんではなく―――――彼の父、リカルドさんの面影を強く遺しているように見えた。
ああいう覚悟をしてしまった人間は強いんだ。
彼は彼なりのやり方で、自分の過去を償い、ナナと人類を守ろうとしている。