第130章 天秤
「もうすぐ完成する疫病の特効薬の作り方は、僕以外に決して継承しないこと。そして―――――僕のその製薬の知見と製造に関する権利は全て、王政に委ねると。」
「―――――!!」
「…………。」
ロイは俺を見て微笑んだ。
最初から、俺がナナを守り切るということも、心の底では信じていなかったのだろう。
いつかリヴァイが『ナナをロイのところに長期間置いて大丈夫なのか』と口にした。
――――リヴァイも何か知っているんだ。
ロイのこの異常なまでのナナへの執着を。
ただの姉弟としての度を越えている。
「――――更に言うなら、極秘で疫病の――――強毒化も試みてる。」
「………何てことだ………。」
「やけにあっさり研究所の設立を進めたと思ったんだ。それに僕を代表に据えたのも―――――、僕がやって来た裏の仕事の汚さを知っていたから。変に“人を救う”という正義感を持った人間じゃ、やりづらい。僕がちょうど良かったってわけだ。『これまでの事を、罪に問わない』なんて餌でも釣れるしね。」
「――――それだけの見返りで君が満足するとは思えないな。」
俺が追及すると、ロイは目を開いて、ナナと同じ驚いた顔をした後―――――嬉しそうに、笑った。
「さすがだ、エルヴィン団長。奴らに提示したのは――――調査兵団が裁かれるその時に、姉さんだけは罪に問わないということ。」
「………なるほど。」
「――――奴ら、あっさり受け入れたよ。」
「そうか。」
「だから――――、僕としてはもう姉さんさえ連れ帰れれば、調査兵団がどうなろうとどうでもいいんだ。」
「君は実に合理的だな。」
「ふふ、ありがとう。」
悪びれる様子もなく、椅子をきぃ、と後ろに揺らしながらにこやかにロイは笑う。