第130章 天秤
「――――反撃、とは語弊だな。俺は別に王政に喧嘩をふっかけたいわけじゃない。あくまで人類の存亡にとって必要なら彼らにも背くという意味だ。」
「――――建前は、ね。」
ロイが口の端を少し釣り上げる。まったく、洞察力に長けているのは姉譲りか。
「まぁどう受け取られようと構わない。だが、誓ってこのままにしておく気はない。このまま何もしなければ、壁内人類は巨人に淘汰されるか、壁内で人間同士殺し合う未来しかない。――――君の言う反撃は、あり得る。」
俺の言葉にロイはまた口角を上げた。俺がこう言うだろうということまでお見通しだ。
「――――人間同士の殺し合いか。――――本当にこのままウォール・マリアを取り戻せないまま――――更にウォール・ローゼが破られたら……先日の兵力行使では死人は出なかったみたいだけど、憲兵が反乱を起こした民間人を殺すところから始まる。そして一度それが起これば人民の王政への不満が火を噴く。王政の中心にいる奴らはなんとしてもこれを避けたい。自分の身がこの世で最も可愛いんだよ。何十万人の命よりも、100年の人類の歴史とささやかに築いてきた文明よりもね。」
「――――………。」
昏い目で残酷な想像を述べるロイは――――ナナに、そっくりだ。恐ろしいのは、これが想像に過ぎれば良いが――――、本当に起こる、いわば近しい未来だと言うことだ。
「―――そこで考える。『あぁ、自分達じゃない、民間人を殺してくれるモノがあればいいのに』って。」
ロイは天を仰いで、ふふ、とあどけなく笑う。
「――――………ロイ、君はまさか―――――……。」
「僕はあいつらと取引をした。」
「…………!」