第130章 天秤
リヴァイの進言はわかる。
それが正しいのだろう。
彼女を正しく慈しむように愛しているのなら。
だがナナは離れたくないと、死ぬとしても一緒がいいと泣くのだろう。
俺はその涙に抗えないんだ。
それに――――死ぬなら、俺の腕の中で。
その願望が消えない。――――いつからだ、このナナへの愛し方がリヴァイとまるで逆転したのは。
リヴァイこそ、危く自分勝手な愛し方をしていたのに。
今では―――――俺の方がきっと、どうかしているんだ。
ふっと息を吐いて、起こしていた上体をベッドに預けると――――扉が鳴った。
「―――エルヴィン団長。僕です。ロイです。」
「ロイ。どうぞ。」
入室を促すと、遠慮がちに開いた扉からナナと同じ色の瞳が覗いた。
「ああロイ。よく来てくれた。それに――――トロスト区が襲撃された時も、世話になったね。」
「いえ………。」
ロイの目線は、俺の右腕に釘付けになっていた。
苦しそうに顔を歪めたそれは、俺自身を心配してか、それとも―――――最愛の姉を守るはずの俺が、役立たずになったことへの嫌悪か。
「――――本当に、腕………。」
「……ああ、まぁ左腕だけの生活にもそのうち慣れるさ。」
「……このまま引き下がらない、ですよね……?」
「……どういうことだ?」
「多額の出資を募った壁外調査で成果はなし。そしてストヘス区で独断で無茶な巨人捕獲作戦を実行し沢山の民間人を死なせて―――――、そうこうしている間にウォール・ローゼ突破の報せがあってうやむやになっているようですが、調査兵団の評判も信頼も皆無の状態ですよ。」
「……耳が痛いな。だが、その通りだ。」
「兵士も随分失ったんでしょう?………この兵舎にも、人が少ない。」
「そうだな。」
「まだエルヴィン団長に反撃の意志があるのなら、少しは手助けになる情報を僕は持ってる。」
ロイがいつになく真剣な顔で、俺の目を見る。
20歳そこそこの若者とは思えないほどの堂々とした物言いは、彼の有能さを証明しているようだ。