第130章 天秤
兵舎内がざわ、と若干色めきたっている。
ロイが来たと聞いた。それでか。見目麗しいからな、あの姉弟は。
そしてまた――――ナナが倒れたとリヴァイから聞いた。最近のナナの体調の悪さはどう見ても疲労だけではないと感じたリヴァイが、呼んだらしい。あわよくばこのままロイがナナを戦線から引っ張って王都に連れ帰ることを期待してだろう。
あいつはどうやっても、ナナを危険に晒したくないんだ。だが――――俺はナナを側に置きたい。
これから何が起こっても、世界が変わる瞬間に――――俺と君は立ち会わなければならない。
俺は亡き父のため、そして――――ナナは、ワーナー氏のために。
『――――お前はもう満足にナナを守れねぇ。余計な事を考えずに、ロイに連れ帰らせろ。今ならもう王都に帰らせたところで、中央憲兵だってそれどころじゃねぇ。もうこれだけ引っ掻き回されて混沌とした中じゃ、今更ナナを吐かせてもなんの意味もねぇからな。』
リヴァイがエレンとヒストリアのところへと発つ直前に俺に言い残した言葉だ。
もっともだ。
ナナはもう――――このいざこざから遠いところに匿うのが懸命だ。
「――――わかって、いるのにな………。」
ナナは幼名の“エイル”が表す癒しの女神そのものだ。
俺だけじゃない、リヴァイも、ハンジも、ミケも――――リンファも、多くの仲間の外傷だけでなく心に寄り添い癒してくれる。
けれど――――それを、自らの身を削ってまで沿ってしまう癖が抜けない。入団当初からそうだった。兵士長補佐の仕事と訓練を両立しつつ、合間にハンジの研究を手伝って――――、ハンジが『いつ休んでるのか』と心配していた。
人を救うこと、そして誰かの役に立っていないと生きていく意味が見出せないとでも言うような危さがある。
俺とは正反対だ。
だから惹かれ合うのか。