第129章 苦悶③
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その日の午後、思いもよらない人物がトロスト区の兵舎を尋ねて来た。
「ナナさん、弟さんが来てますよ。」
「えっ?」
なぜロイが?
そしてなぜここが分かったのだろう。色んな事に疑問を抱きながら兵舎の入り口まで迎えに行くと、そこには本当にロイの姿があった。
「ロイ!」
「姉さん。――――痩せた?」
「え、あ……。」
ロイはすぐに私の腰を抱き寄せて、至近距離で顔をまじまじと見る。とても恥ずかしいのでやめてほしい……。
「どうしたの、なぜここが――――。」
「あのチビが手紙を寄こしてきた。まぁおかげで、調べものの結果も届けに来れた。」
「調べもの……!あぁ、ありがとう……!」
ロイが相変わらずリヴァイ兵士長に悪態をつく。けれど……リヴァイ兵士長がロイに手紙を……?
リヴァイ兵士長もロイのことをよく思ってないはずだけど……なぜ……。と考えていると、背後から恐ろしく鋭い声が飛んできた。
「――――誰がチビだこのクソガキ。シめてやろうか。」
「リ、リヴァイ兵士長……っ……!」
「このシスコンが。気安くナナに触んじゃねぇよ。早く姉離れしやがれ。」
リヴァイ兵士長に腕を引かれ、ロイの懐から引きはがされる。
「は?僕は家族ですから。あなたなんて、姉さんに捨てられてもうただの他人じゃないですか。そっちこそ気安く触らないで欲しいな。」
「……あぁ?」
「……ロイ!!リヴァイ兵士長になんてこと言うの……!い、行くわよ!!もう、とにかく黙りなさい……!」
リヴァイ兵士長は――――、いや、あれはリヴァイさんの顔だった。物凄く苛立っていた。
空気がピリッと、張るくらいに。ロイの胸元を掴みあげると、心臓を突き刺すような鋭く冷たい声で言った。