第129章 苦悶③
翌日、タイミングよくピクシス司令がエルヴィン団長を見舞われ、ピクシス司令からの王政や兵団本部が関わった世情の動き、ハンジさんからはラガコ村の現状から推察した残酷な仮説が報告された。
「――――つまり巨人の正体は、人間であると。」
要約したエルヴィン団長の言葉に、その場の全員が信じがたい、いや、信じたくないという顔をした。
「全ての巨人がそうだという確証はないけどね……。ただ、巨人の弱点と照らし合わせても合点がいくんだ。ナナ。」
「――――はい。エレンが巨人化した時も、アニが巨人化したときも――――いずれも項から本人が現れています。これは巨人の弱点と無関係ではない。縦1m横10㎝には何が該当するのか……それは――――人間の脳から脊髄にかけての大きさに当てはまります。その部分を損傷すれば修復機能も全て失い朽ちていくのは、それは巨人から独立した器官があるからだと、思われます。」
私の言葉に、リヴァイ兵士長が俯く。
「ハンジ。てめぇは生け捕りにした巨人の項を切り開いてはパァにしちまうじゃねぇか……。そんな人間の脊髄が残っているような様子を見たことがあるのか?」
「いや……特に人の変わったものは見なかったんだけど。同化して姿かたちがそこになくても、私もナナの考察にはとても頷けるものがあると思ってる。」
リヴァイ兵士長の表情が陰る。
私とハンジさんが昨晩打ちひしがれたように―――――兵士なら誰にとっても、この仮説は残酷だ。
――――特に討伐数を唯一数えきれないほどに積み重ねてきたこの人類最強の兵士にとっては。
「じゃあ……何か?俺が必死こいて削ぎまくっていた肉は実は人の肉の一部で―――――俺は今まで人を殺して飛び回ってた……ってのか?」
「――――確証はありません……。それに………。」
リヴァイ兵士長の顔を見ていられなくて、咄嗟に言葉が漏れ出る。
「――――ナナ。それに、何だ……。」
「――――いえ………。」
何かを言いたかった。
けれど、あなたは悪くないなんてそんな安い言葉では気休めにもならないと………そう感じて、続く言葉を飲み込んだ。