第129章 苦悶③
「そう言えば、エルヴィンはどう?」
「はい、随分いいようです。明日にはみなさんと面会もできます。」
「そうか、良かった。食べられないようにしなよ。片腕でも関係なく迫ってくるよ、あいつは。」
「ふふっ……、気をつけます。」
ハンジさんの笑顔が戻ったことにほっとして、私は隣の椅子に戻った。ティーカップに2人で口をつけて、静かに流れる時間の中で――――紅茶の香味に乗せて、これまでの自分たちの中にあったどろどろした良くない感情をゆっくりと溶かしながら―――――流し込んでいく。
「――――ありがとうナナ。」
「なにもしてませんよ。」
「――――誰にも癒せない、赦せない部分をナナが溶かしてくれる。だから救われる。きっとエルヴィンもリヴァイもそうだ。だから――――ありがとうを、ちゃんと受け取って欲しい。」
ハンジさんがいつになく真剣にそう言ってくれるから、私はとても嬉しかった。
「――――どういたしまして。」
彼女は投げ出さない。
また明日にはこの眼鏡を身に着けて――――、真実を解き明かすために、その瞳を輝かせて考え、調べ、前を向くんだ。
私もそこにちゃんと――――全力で沿ってみせる。
机の上に投げ出された眼鏡越しに少し歪む世界に小さな恐怖を覚えつつも―――――明日もまた、私たちは未知に挑むんだ。