第129章 苦悶③
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エルヴィンの回復の兆しが見えて、一安心だ。
エルヴィンの食事を終えて食器を片付けるために食堂に立ち寄ると、夕刻にラガコ村の調査から帰着したハンジさんの姿がある。
酷くお疲れの様子で、隅の椅子に腰かけ、頭を抱えるようにして俯いている。彼女のトレードマークの眼鏡が外されて、ぽつんと、なにもない机の上に投げ出されていた。
「……ハンジさん……?」
私が小さく呼ぶと、ハンジさんが昏い顔をゆっくり上げた。
「……ナナ………。」
「おかえりなさい。」
「ああ……。もう立ち歩いて平気なの?」
「はい。ご心配をおかけしました。―――リヴァイ兵士長が看病してくださって……もう大丈夫です。」
「相変わらずナナが可愛くて仕方ないんだな、リヴァイは。」
ハンジさんは柔らかく笑って、私の頭を撫でた。
けれどその表情は、いつものそれと全く違う――――。
辛いことがあったんだ。
彼女が心を削がれるのは―――――ラガコ村の真実が、受け入れたくなかったような内容だったことを物語る。
「――――紅茶を淹れましょう。」
「え?」
「心が落ち着く香りのものを。一緒に飲んで下さいますか?」
「………もちろんだよ。」
ハンジさんの前に、香りのよい湯気が立つカップを置く。
私も隣に置いて、そっと側に座る。
「――――ナナが、聞きたくないような話をしてもいい?」
「はい。」
「………コニーの母親が巨人化していたのは、まず間違いなかった。」
「…………!」
やはりそうだ。
色んな事が頭の中を飛び交うけれど――――、どんな気持ちだったろう、コニーは。ハンジさんは。
それを想像すると、胸が引き裂かれそうに苦しい。