第129章 苦悶③
「これは――――エルヴィンが痛みを分けてくれた証拠。」
「…………。」
「言ったでしょ、私に分けてって。」
「――――だが……。」
「――――だから嬉しい。」
「…………。」
「――――今日はまだ一回もあの痛みは襲ってきてない?」
「………そういえばないな……。」
ナナは俺の言葉を聞いて、柔らかく微笑んだ。
「良かった!私、役に立ったのかもしれないね?」
「ふ………。」
茶化すように笑ってくれるそれが――――、俺の罪悪感を少しだけ和らげてくれる。小さく笑った俺を見て、ナナはしみじみと言った。
「――――おかえりエルヴィン。」
「………あぁ、ただいま。」
ナナは控えめにそっと俺に顔を近づけて――――、目を閉じて、触れたか触れないか、くらいの小さなキスをする。
目を開けて、頬を染めて――――、俺の胸に少しだけ頭を預ける。
「――――約束を守ってくれて――――……ありがとう。」
「…………。」
ナナの髪の隙間から、真っ白な首筋に強く紅く咲いた花のような痕が見える。
身体中に残る青痣や噛み跡とはまるで違う唇の痕に少しの違和感を覚えつつも、ナナの頭を残った左手で慈しむように撫でた。