第129章 苦悶③
とても深く眠っていたようだ。
気が付けばすっかり窓の外には月が昇っている。
ナナは、俺を抱いたまま――――まだ眠っているようだ。まるで少女のようなあどけない寝顔は、いつ見ても可愛い。
ふと、ナナのシャツの隙間から青紫色の痣が見える。ナナは壁外に出ていないのに――――なにかあったのかとその他の箇所にも目をやると、ナナの細い腕にもうっすらと鬱血した跡がいくつも残っている。首筋から肩にかけては――――、怪我を処置したような、当て布がされている。
――――混濁する記憶の中から、断片的に思い出した。
『――――大丈夫、大丈夫……。痛くなくなるまで、こうしてる……。』
ナナの声を覚えてる。
痛みに耐えかねて意識を失いそうになる狭間で――――ナナに傷を負わせたのは、俺だ。
「――――エルヴィン……?起きた……?」
「………ああ、今起きた。――――とても良く眠ったから……気分がいい。」
「うん……私も。」
俺が身体を起こすと、ナナも上体を起こした。その時にはらりとシャツの襟元がはだけて痣が見えそうになったのを、ナナは慌てて隠した。
その反応からも分かる。
俺が傷付けたんだ。
「―――すまない、記憶がない。」
ナナの痣を左手でそっとなぞって目を伏せる。
ナナは、『あぁ、バレてしまった』とでも言いたそうに眉を下げた。