第128章 苦悶②
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日が傾いた夕暮れ。
茜色の夕日がやけに明るく感じる。
昼間は104期のガキ共と今後についての話をして、ハンジと共にトロスト区の兵舎の一室に匿っているニック司祭が何か話す気になったかと話をしに行っていたから、こんな時間になっちまったが……様子は見ておかねぇとと思い、ナナの眠っていた部屋の扉を叩く。
反応がない。
――――寝たのか?そう思ってそっと扉を開けると―――――、ベッドはもぬけの殻だ。
「―――ちっ……早速か……じっとしてねぇな、あいつは……。」
ナナが行くところは決まってる。
――――エルヴィンのところだろう。
だがエルヴィンもまだ目覚めない。
またかいがいしく世話を焼いてナナが倒れたら面倒だ。連れ戻してやる。
そう思ってエルヴィンの部屋を訪ねる。
扉近くに来たところで耳を澄ませると、とりあえずベッドの軋む音はしてねぇ。
………まぁ、そんなことになってたら扉を蹴破って引きはがしてやるところだが。
――――だが会話も聞こえない。
エルヴィンが眠っているのなら起こしたくないと、ノックをせずに静かに扉を開ける。
「――――………。」
俺の目には、ベッドでエルヴィンを抱いて眠るナナの姿が飛び込んで来た。その顔は柔く美しく微笑みを湛えていて、慈しむように、深い愛情でその全てを受け入れ癒す―――――、いつか俺もそう感じた、癒しの女神のようだ。
エルヴィンもまたナナに全てを預けきって信じきって――――……どれだけ深く繋がっているのかと、驚いた。
エルヴィンがあんなに誰かに弱っているところを曝け出して、身を預けるところなんぞ見た事がない。
あいつは例え信頼関係を築いている奴にだって、心の底も、弱さも、本心も全ては晒さない。
これがエルヴィンがナナに執着する理由か。
この重責の中唯一全てを曝け出して安らげる場所だとしたら――――喉から手が出るほど欲しいに決まってる。
そして一度手に入れたら――――
その甘美な居場所を、離すはずがない。