第128章 苦悶②
「……………。」
なぜか、エルヴィンの部屋からベッドの軋む音と――――ナナが鳴かされる声を聞いた時よりも胸中が淀んでざわつく。
ナナがエルヴィンを求めるなら――――その腕に還すように俺がそう、仕向けた。
それなのに―――――このナナの顔を見ていると、ナナがこの世で唯一俺にしか抱かない……ガキの頃から俺に持ち続けているのであろう想いを、エルヴィンにも抱き始めているように見えてひどく焦燥する。
いくらエルヴィンと身体を交えても、ナナの心のその部分だけは永遠に俺だけのものだと思っていた。
それすら特別じゃなくなったら――――俺はナナにとって――――、何になるんだ。
何でもなくなるのか。
本当に、過去になるのか。
ナナが幼い頃の――――エイルと俺のあの日々と、あの形容しがたい特別な関係性だけは色褪せることなく俺だけのものであり続けるんだと、思っていた。地下街でナナと過ごしたあの僅かな時間に胡坐をかいていたんだ。
相手は―――――全てを思い通りに手に入れないと気が済まない、壁内一の曲者だというのに。
ナナが幸せそうに笑うのはきっと俺の隣じゃないと、13年前から分かっていたつもりだが―――――
だが、それでもナナを諦めきれない俺は、やはりどうかしている。
「――――お前の中から消すなよ俺を……ナナ………。」
気付けばベッドの側でナナを冷たく見下ろしていた。
――――よく、眠っている。
そりゃそうだ。
まだナナだって完全に回復していない。
――――ほんの小さな、ただの出来心だ。
エルヴィンを抱いて眠るナナのその無防備な唇を、食らう。
ちゅく、と小さく舌を差し入れると、僅かにナナは息を乱した。
頬へと唇を移して、耳――――、そして耳の後ろの真っ白な首筋に、小さく俺の印を残す。
散らされたその真紅の痕は美しく――――俺の中の欲にまた小さく灯った焔のように見えた。