第128章 苦悶②
「―――すまない、ナナ……。」
「……………?」
「―――君を抱く腕が、足りない。」
左腕をナナに伸ばして、涙を拭うその細く白い手首をそっととる。
ナナは目を見開いて、ぐしゃぐしゃの顔で眉を下げて少し――――笑んだ。
「私が抱いてあげる。いつだって――――何度だって………!」
そう言うとナナは俺に両手を伸ばして、押し倒してしまいそうだと言ったように、確かにぎゅっと力強く――――俺を胸に抱いた。
彼女の温もりと、清純で温かな陽だまりのような匂いと、ひく、とひきつるような泣きじゃくった後の呼吸と――――全てが愛おしくて、ここにこうして帰ってくるために腕を断ったのは間違いではなかったと、安堵した。
「―――ちょうどいいな。」
「………なにが……?」
「―――顔をあまり、見られたくないから。」
「……どうして……?」
「何日ぶりに目覚めたのかわからないが――――、酷い顔だろう?」
「ううん。」
「――――嘘だ。君の言う“かっこいい”俺じゃないだろう。」
「かっこいいからエルヴィンが好きなんじゃないもの。」
「――――………。」
「あなたがあなただから好き。むしろ――――誰にも見せない弱いところも、かっこ悪いところも見たい。私だけが知ってるエルヴィンなんて、素敵でしょ……?」
ナナが小さく笑う。