第128章 苦悶②
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「――――やっと、目を、開けて……くれた……っ……!」
両目から次から次へと零れ落ちる涙を両手の甲で拭いながら、ナナはうわぁああぁん、とまるで子供みたいに泣く。
ああそうだ、これは――――この仕草は、幼い頃の君だ。
俺を失うことが怖かったのか。
だから放っておけないんだ。
この涙を拭ってやることができなくなるなら―――――、抱き締めて頭を撫でて、これまでの彼女の頑張りを褒めて労ってやることができなくなるなら――――、例えその生の終焉であっても、共に連れていく。
だが……あの時リヴァイの顔が浮かんだ。
あいつもまたナナの涙を拭って抱き締めてやれる。
そして――――褒めて労って、導いてやることも、今のあいつは見事に体現している。
それも、私のものになったナナにさえ変わらぬほどの――――いや、むしろ更に大きな愛情を募らせて。
あぁこれは――――どちらの自分の思考だろうか。
調査兵団団長の私の思考か。
本当のエルヴィン・スミスなら――――リヴァイの変化など見なかったことにして、最期の最期まで自分の思うままにナナは共に連れていくと、言い張るだろうから。
頭の中が混沌としているのは、血が足りないのか。
泣いているナナを見つめていると、どちらの自分であっても変わらず―――――ただ、愛おしいという思いが溢れ出る。