第128章 苦悶②
エレンにも言われちゃった。
やっぱりちゃんと、食べなくちゃ。
そう言えばリンファを失った時も食べられなくて――――、エルヴィンが叱って、私が食べられるように側にいてくれた。今度はまたリヴァイさんに食べさせてもらわなきゃ食べられない、自分の健康も守れないなんて――――……兵士失格だ。
そう思うけれど、一向に美味しそうだとか、食べたいだとか、美味しいだとかは思えなくて。
なんとか生命を維持するために食べている、そんな感じだ。
でもおかげで随分体力も戻った。
立ちくらみや眩暈もしなくなったし――――、そろそろエルヴィンの様子を見に行きたいと、私はエルヴィンの部屋を訪ねた。
きぃ、と扉を開けて、私は驚いた。
上体を起こして、窓の外を眺めているその人の姿があった。
「――――エル、ヴィン……?」
小さくその名を呼ぶと、窓の外を眺めていた顔をこちらに向けた。無精ひげをたくわえて、頬が少しこけて顔色も悪い。
その様相はまるでいつものエルヴィンとは違うけれど――――私が愛するその美しい蒼は変わらない。
その蒼を細めて、小さく私の名を呼んだ。
「―――ナナ。」
「エルヴィン……っ!!!」
思わず私は駆け寄って―――――抱きついてしまうところだった。けど、なんとか僅かな理性でぐっと堪えて、ベッドの側でどうしていいかわからず、両手の拳をぎゅっと握り締めて、涙を堪えた。
「――――……どうした……?手が、震えている………。」
「………っ……、どうして、いいか、わからなくて……耐え、てる……。」
「……耐えてる?」
「………押し倒しちゃうほど、飛びつき、たかった……けど、耐え、てる……。」
目を合わせられなくて俯いたまま小さく胸の内を伝えると、エルヴィンはふ、と小さく笑った。
「――――いいよナナ。おいで。」
とことん優しくて、愛情を含んだその声で紡がれた言葉に―――――私が欲しかった言葉に、顔を上げてエルヴィンの目を見る。
その蒼い瞳に自分が映って――――その名を呼ばれたら、絶対に泣いてしまう。
分かりきっていたんだ。
彼の前では私は―――――ただの女の子になれるから。