第128章 苦悶②
「――――兵長からお達しがあった。104期と先輩方と………また別の拠点にしばらく身を潜めることになるって………。」
「………そう。」
「――――ナナは行かないんだろ。」
「………行かない。私は――――エルヴィン団長の右腕だから。」
「…………。」
「――――俺は、行く。この巨人の力をちゃんと操って―――――いつか……!ライナーとベルトルト……あの裏切者を……っ………!」
私の両手首を掴む手にぎり、と憎しみと共に力が込められた。
「エレン、逃げないから手を放して……。」
小さな声で言うと、エレンはしぶしぶその手を離した。
まだまだ子供なこの子を――――、気性の激しいこの子を、矢面に立たせることがとても辛い。
ふわりと、優しく――――母が子を抱くように、そっと抱きしめて頭を撫でる。
「――――辛いね、ごめんね……。ありがとう、エレン。」
「――――………。」
エレンは少し鼻をすすって、ほんの数秒私に身体を預けると――――、むくりと起き上がって、優しく手を引いて私の身体を起こしてくれた。
「――――軽すぎる、ナナ。ちゃんと食えよ。」
「ふふ、わかった。」
「………一つ言うけど。」
「ん?」
「――――俺だって男だ。」
「………そう、だね。」
「――――無防備過ぎる。ナナは。」
「だってエレンだから。」
「それが傷つく。」
「………あはは。」
「笑うな。」
「……ごめん。」
「――――じゃあな。」
エレンは振り返らずに、部屋を出た。