第128章 苦悶②
「エレン、放して。私エルヴィン団長のところへ――――」
「――――嫌だ。」
エレンががたん、と椅子から立ち上がると上体を起こしていた私の両手首を押さえてベッドに張り付けた。
――――驚いた。
とたんに――――少年から、大人の男性の顔をするから。
「――――どうしたの、何に怯えてるの?」
「………ちょっとは……動揺しろよ……!」
「だって怖くない。私の目の前にいるのは、ずっとずっと可愛い、エレンだから。」
「―――可愛いって、言うな!」
「―――私にとってあなたは弟みたいに可愛い存在だから、仕方ないでしょう?」
やり場のないイライラを、もどかしさを、鬱憤を――――何かに向けたいんだろう。受け止めて、受け入れてくれというエレンの甘えだと思う。
辛い気持ちならいくらでも受け止める。
だけど――――決して異性として振る舞ってはいけない。
「―――私はエレンの姉みたいなものだけど……上官です。放しなさいエレン。」
押し倒されていても目を逸らすことなく、動揺もせず、ただただ冷静に牽制する。
「――――ナナはただの女だろ。」
「………それはエルヴィンの前でだけ。」
「…………!」
エレンは苦しそうに、悔しそうに顔をしかめた。
そして私の胸にとん、と頭を預けた。このまだ細い肩は小さく震えているように見えた。
人類の命運を背負わせて――――申し訳ないと思う。
でもあの審議の日にエレンが言った通り、力を持っている人が戦わなくては。抗わなければこのまま人類は滅びゆくだけだ。