第128章 苦悶②
ナナは少しずつ、買い与えた菓子を食べるようになった。時折、調子が良ければパンをかじったり、まだまだ普通に食えているとは言い難いが、体力をつけるために食べないと、という意志を感じる。
――――早く、エルヴィンのところに戻りたいのだろう。
正直、エルヴィンの重傷でもっと泣いて錯乱して、取り乱すのかと思っていたが。
見事だと言えるほど冷静で、的確な処置だったとトロスト区に着いてから一緒に治療に当たった医師が詠嘆していた。
ここぞの時にその頭を生かしていい采配をする。
エルヴィンが壁外に出ていた間も、壁上の采配を全てナナが執ったと他の兵士から聞いた。それはまるで無駄がなく、この先に起こりうることまで緻密に考えた、まるでエルヴィンの意志で動いているようだったと。
エルヴィンが育て上げてきた団長補佐は、申し分なく優秀だ。
だが、あいつが弱い部分を吐き出せるリンファがいないことで、今回のように抜きどころがわからないままがむしゃらに全てを兵団のために捧げて、いつか命まで削るんじゃないかと心配になる。
「――――いつまで経っても……目が離せねぇんだよ、くそ………。」
リンファの存在の大きさを、今更ながら痛感する。
そう言えばあいつと俺はナナのことに関しては共同戦線だった。不安定で危なっかしいナナを見守り、支える。
そうだ、それに――――ミケも、そうだった。
決して強くないナナを、愛情を持って支えていた奴らが―――――こぞって、死んでいく。
それこそ、エルヴィンや俺が死んだら――――ナナはどうなる?
エルヴィンが言った “共に生きるのなら、死も共に。”
それを――――少しだけ、理解してしまいそうだ。
ナナが本当にそう望むなら――――それに沿ってやることがナナのためになるんじゃないかと――――、わずかな迷いが、生まれる。