第128章 苦悶②
「―――お前が俺の手から飯を食う時の顔は悪くない。」
「………なんだか嫌な予感が、します……。」
「―――なんなら人参をスプーンからじゃなく口移しで食わせてやろうか?得意だぞ俺は。」
「………!」
――――意地が悪い。
過去の甘く愛おしいあの日々を、いとも簡単に呼び起こそうとする。
「結構、です……!」
その時、スープの香りが鼻についた。
それだけで嫌悪感が沸き起こる。
――――食べることへの恐怖と嫌悪は、確実に徐々に徐々に、深刻なものへと変わっていっている。
「………う………。」
血の気が引く。
身体が拒否していることが明白だ。
口に手を当てて俯くと、リヴァイさんはテーブルに食事を戻して、私の背中を撫でた。
「―――甘い物なら、食えるか?」
「………すみ、ま、せん………。」
そして言った通り、リヴァイさんは紅茶と焼き菓子を持って来てくれた。
小さなクッキーをぽり、と一口齧ってみる。
なんとか、食べられそうだ。
前の私なら喜々として味わったこの甘味も、今はとても美味しいとは思えない。
味もない。
ただ、リヴァイさんの言うように死なないために食べている。
それでもやはり紅茶は美味しいと、唯一思えた。
身体の中に温かいものが染み渡る。
「―――食えて良かった。」
「………はい………。」
「だが少しずつ飯も食えるようにしろよ。――――お前が食うことを、誰も責めてなんかいない。お前が生きていることを、喜ばしいとこそ思えど――――、責める奴なんていない。」
「………はい………。」
死んでいった仲間が夢に出て来るほど――――ずっとずっと、心の奥底に自分が生きていることを肯定してあげられない想いがあった。
―――――それが苦しかった。
このめまぐるしい毎日の中でそれをごまかしごまかしやってきたけれど――――、ここに来て、体も心も疲弊してしまったのだろう。
リヴァイさんのその言葉は、どんなお菓子よりもじわりと、私に染みいって――――心を癒してくれる。
そんなはずじゃなかったのに、ぽろ、と一滴の涙を、落としてしまった。