第127章 苦悶
「―――じゃあ尚更だろ。」
「…………。」
「体力をつけねぇことには受け止めるなんて不可能だろうが。食え。食って寝ろ。――――言っただろ、あいつを癒せるのもまた、お前しかいないんだ。自分をないがしろにするな。」
「――――光合成、できたらいいのに。」
「あ?」
ナナが窓の外に揺れる木々の青々とした葉を見て、意味のわからねぇことを呟く。
「――――食べなくても、太陽から栄養作っちゃうんですよ?お得ですよね。」
「………何をそんなに嫌がる。」
「…………。」
ナナはもともと食う事をないがしろにする癖はあったが、これほどまでに食う事を拒否するのは、何か理由があるんだろう。
トラウマか――――、巨人に食われる仲間を、見過ぎたからか。
「――――気持ち悪く、なってしまうんです。自分が、なにかの命を摂取していることが。」
「…………。」
「――――私の咀嚼が、命を奪っているんだって――――思うと――――、食べても食べても、拒否するみたいに―――体が受け付けなくて、しんどいんです……。」
わからなくもない。そんなトラウマに苦しんだ奴も確かに過去に、何人も見てきた。
「――――それでも食え。肉を食えとは言わない。罪悪感を感じにくいものからでいい。――――何が食いたい?何だったら食えるんだ。」
「――――………。」
「紅茶は飲めるか?」
「………はい、飲めます……。」
「―――ならお前の好きな物を揃えてやる。甘い香りの紅茶に、焼き菓子だろう?少しずつでいいから食え。まさか兵士長の温情を無駄にしねぇよな?」
俺が椅子から立ち上がると、ナナは甘えた表情で柔らかく、嬉しそうに笑う。
「――――嬉しい、です……。」
「――――……世話が焼ける。帰って来るまで寝てろ。命令だ。」
「はい………。」
そう言って俺は、ナナの部屋を出て街に向かった。