第127章 苦悶
エルヴィンが目覚めるのを待ってはいられない。
俺が動かす班を再編成して――――、エレンとクリスタをクソ共の手の届かないところに隠す必要がある。
ナナの眠るベッドの横で、椅子をきぃ、と傾けながらこれからのことを考える。
すると、ベッドの中でナナが小さく声を発した。
「――――ん………。」
ゆっくりと銀糸の睫毛を持ち上げていく。少し眩しそうに目を細めながら、その目を開いた。
天井を見上げたまま、状況が理解できないのか、数秒じっと天井を見つめたと思ったら首をゆっくりと動かして辺りを見回した。
そして俺に気付いて――――、ふにゃ、と眉を下げて笑う。
「――――なんでいるの……?」
「あ?」
「――――リヴァイさんだ。」
「他に誰がいるんだ。――――ぶっ倒れたお前の面倒を見るのは今までも大抵俺だっただろうが。お前はいつもいつも心配ばかりかけやがって。」
腕を組んで苦言を呈すと、ナナはふぅ、と小さく深呼吸して、小さく言葉を漏らした。
「――――ちょっと疲れてたのでしょうか。」
「ああ、ちょっとじゃねぇだろ。医師が呆れてたぞ。過労だそうだ。」
「そうですか……。」
「飯も食ってねぇだろ、お前。」
じろりと睨むと、肩をすくめて気まずそうに布団を引っ張り上げて顔を半分隠しやがる。
「――――だって、食べたくないんです……。」
「食いたくなくても食え。死ぬぞ。」
「…………。」
「――――その身体中の傷は、エルヴィンか?」
核心をつくと、ナナはおずおずと布団から顔を出した。
「………はい、狂いそうなほどの痛みが襲って来るんです……、その痛みを、何かにぶつけないと逃がせないんだと、思います……。その痛みとエルヴィンは闘っているから……、これくらい、受け止めたいんです。」
俺がまた怒り心頭でエルヴィンを責めるとでも思ったのか、言い訳と、あくまで自分の意志だと含めてもごもごと歯切れの悪い答えを述べる。