第127章 苦悶
医師が部屋を去ってから、サッシュが心配そうにナナを見つめて言葉を零した。
「もっと早く、嫌がってでもベッドに縛り付けてやれば良かったな……。こいつ、寝てもいなかったですけど……多分ろくに、食ってもなくて……。」
「―――有事の際にこいつが自分をないがしろにするのは、今に始まったことじゃない。――――リンファがいなくなってから、余計にだ。」
「そう、なんすか……。」
「―――もし今後気付いたら、力づくで食わせろ。そして寝かせろ。」
「はい……。」
「あと。」
「はい?」
「―――すこぶる良い働きをしたと聞いた。――――俺が行けなくて迷惑をかけたな。感謝する。」
俺の言葉を受けて、サッシュはぽかんとした顔をした。
「あ?なんだその顔。」
「え、いやあの……兵長感謝とかできる人間だったんですか。」
「……喧嘩売ってるなら買ってやるが?足がイカレてても、てめぇくらい造作ねぇ。」
「いえっ、すみません……!ありがとう、ございます……!」
「………ああ。これからも―――――頼む。」
「はい!」
サッシュは満足げな表情で敬礼をして、部屋を出た。
奴の成長は目まぐるしい。
愛する女を失ってなお前を向き続けられるその精神力も含めて、だ。
「――――ミケよ。お前はもう帰ってこないのか?分隊長の座を――――サッシュにとられてもいいのかよ。」
窓の外に流れる雲を見上げて問いかけてみても、答えなど返ってくるはずもない。
エルヴィンがこの状態で、ハンジは随分回復したが、完全な状態ではない。ナナが倒れて――――ミケは死んだ。
依然として人類の脅威を排除できないまま、また奴らは次の手を必ず打ってきやがる。
「――――さて、どうしたもんかな。」
ナナが診てくれた足を、とんとんと床についてみる。
「――――悪くねぇ。」