第127章 苦悶
「――――あと気になるのは、首筋や体の怪我が……。」
医師が言いにくそうにしながら、ナナのシャツの首元を開いた。サッシュに見んなよ、と圧をかけた目線を送るとサッシュはすぐさま後ろを向いた。
なかなか物分かりが良い奴だ。
ナナの身体に目線を落とすと――――、至る所に爪痕や思い切り掴まれて力を込められたような鬱血の痕、そして噛み跡だ。
かなりひどい。
――――エルヴィンが嫉妬に駆られてナナに酷い仕打ちをしたあの夜よりももっと。
「――――ちっ、こいつに看病なんかさせるんじゃなかった……。」
「―――エルヴィン団長の看病を?」
「ああ。」
「―――それなら……もしかしたら、幻肢痛に襲われているのかもしれませんね……。」
「……幻肢痛?」
「はい、失ったはずの四肢に激痛を感じる、治療法も薬もない症状です。――――気が狂うほどの痛みだと、言います。自我を保てないほどの痛みによる錯乱状態で引き起こした行動を、きっとこの人が受け止めているんでしょう。」
「――――………。」
「無理はさせないほうがいい。けれど――――、エルヴィン団長にとっては、彼女は救いでしょうね………。いずれ症状が落ち着けば、いいのですが………。」
「――――理解した。感謝する、先生。」
「いえ、また明日にも様子を見に来ます。くれぐれも食べさせて、寝かせてください。とにかくそれが一番です。」
「……ああ、わかった。」