第127章 苦悶
「ごめんね、なにも出来なくて――――ごめん……っ……!でも、ここにいるから……っ!ずっと側にいる……!」
ただひたすらにその大きな身体を抱き締めると、エルヴィンがやり場のない痛みを少しでも逃がそうとしてか―――――無意識だろう、私の身体を力の限り抱き締め、爪を立てる。
がり、と爪が食い込んだ感触とともに―――――、私の首筋に顔を埋めていた、その場所に、犬歯を食い込ませて―――――噛んだ。
「――――ぅあ…っ……!」
ぎり、と噛みしめられたその痛みなんて――――なんでもない。
エルヴィンのそれに比べたら、こんなことくらい。
荒い呼吸の中、時折長く息をフーーーッ、と吐くエルヴィンが、ようやく少しずつ、落ち着いていく。
「――――大丈夫、大丈夫……。痛くなくなるまで、こうしてる……。」
エルヴィンの髪を撫でながら、小さく歌を歌う。
「――――ずっとずっと側にいる。――――大好き、エルヴィン。」
「――――………。」
「私を置いていかないって、帰ってくるって……約束を守ってくれて――――ありがとう……。」
「―――――ナナ…………。」
痛みに耐えるためのぜぇぜぇとした激しい呼吸の隙間に微かに私の名前を呼んで―――――、エルヴィンは、眠った。
段々頻度は落ちて来てはいるものの、まだ一日に一度はこの悪夢が彼を襲う。
「――――私の右腕を、あげられたらいいのに……。」
叶うならこの血も、この腕もあなたにあげたい。
それでこの苦しさから解放してあげられたらいいのに。
――――薬も効かない。
治療法がない。
そんな症状も病もこの世界には溢れてる。
医療の限界を目の当たりにして小さく打ちひしがれながら―――――眠ったエルヴィンの額や体に滲んだ、痛みによる脂汗を丁寧にふき取りつつ、自らの目に滲む涙を拭った。