第127章 苦悶
トロスト区の病院に運び込んで、輸血をしながら治療をした。
――――けれどそんなにすぐエルヴィンの目が覚めるはずもなく――――私はずっと、四六時中側にいた。
だってもし急変したら。
もし苦しんだら。
そう思うと、片時だって離れたくなかった。
そして――――リンファを死なせて声を失った私を、ずっと看病してくれたその時の恩も―――――返したいから。
「――――ぅ、ううっ……、あ、はっ……!!」
「エルヴィン……!!」
額に汗を滲ませて、苦しそうに唸る。
小さく唸るそれは――――きっと高熱によりうなされる、苦しさによるものだ。
傷口からの細菌感染で、高熱に見舞われている。あまりにも酷い時には解熱鎮痛剤を投与し、それから少しの間は安らかな寝息を立てる。
この、熱にうなされる症状ならまだ対処ができるからいい。
私が最も見るに耐えないのは―――――
「――――う、あぁあっ……!」
「………っ……!」
「あぁぁ…っ……ぐ、あぁっ……!」
――――また襲ってきた。
身を裂かれるような、気を狂わせるような痛みを齎す――――幻肢痛だ。
「―――――エルヴィン……、痛いね……!苦しい、よね……!」
体を大きく揺らして、目を見開いて苦しみもがくエルヴィンをただ抱き締めることしかできない。
「ぁあぁぁっ……!」
幻肢痛は鎮痛剤なども効果がない。
当たり前だ。
――――だって、実際に身体に異変が起こっているわけではない。失ったはずの腕がまるでそこにあるかのように痛むのだから。
これは脳の誤作動だと言われていて――――治す方法は、ない。
今までに患者さんで見たことがある。
その人は、『いっそ殺してくれと思うほどの痛みだ』と――――言っていた。