第126章 代償②
「――――立ってはだめ!!ケイジさん!フィオ!!!エルヴィン団長をこっちに寝かせて!!」
『はいっ……!』
すぐにエルヴィン団長を安静にさせて、その腕の断面を確認する。
――――食いちぎられたんじゃない。
刃で切った痕だ。
エルヴィンが自分で止血したのだろう。
だからここまでもったんだ。
何もしていなければ――――とっくに失血死していた。
エルヴィンに纏わりつく“死”の影に、ぞくりと身体が震えた。
はぁはぁと荒い呼吸を繰り返しながら、エルヴィンが呟く。
「………ナナ……。」
「――――ここにいるよ。大丈夫。私がついてるから。」
「――――君を、抱くための……腕を……無くして、しまった………。」
「――――なんの問題もないよ。私が抱いてあげる。いつだって、何度だって。」
「――――………。」
エルヴィンはふ、と小さく笑って目を閉じた。
「あのっ……ナナさん、エルヴィン団長は……っ!!助かります、よね……?!巨人に……っ……、食われて………っ………!」
私の背後で、フィオがガタガタと震えながら大粒の涙を流している。エルヴィン団長が巨人に右腕を食われるその場面を見ていたのだろう。
「――――すぐに処置する。フィオ、あなたは先にトロスト区の病院に行って輸血の手配をして。」
「は、はい……っ……!」
なんとかフィオは返事をしたものの、フィオの足がガタガタ震えて、歩くことすらままならない。
そうだ――――フィオは、ずっと、エルヴィン団長の事が好きだったから。愛しい人の大事に、動転するのはわかる。
でも。
「――――輸血が無ければ命が危ない。あなたにかかってる、フィオ。行って。」
フィオの両肩をがし、と掴んで目を見て伝える。
赤毛の三つ編みが風でふわ、となびいて――――彼女はぐっと口を結んで、しっかりと頷いた。フィオに私の走り書いたメモを渡すと、それを握りしめる。
「――――はい!必ず……!」
フィオが駆けだした背中を見送って、エルヴィン団長の容体を診る。