第126章 代償②
「―――――ナナさん!!!!!!!」
「フィオ……?」
「団長が―――――……、エルヴィン団長がっ……!!!!」
「―――――……。」
壁の下を見下ろす。
そこにエルヴィン団長の姿はある。だけど馬から倒れ落ちるようにぐらりと、その身体が傾いて――――フィオを始めとした数名の兵士が取り囲んでいる。
どくん、と一度大きく心臓が跳ねた。
けれど―――――こんなことで取り乱していては、補佐官失格だ。
「――――エルヴィン団長が重傷!!一番に引き上げて!!!」
「は、はいっ……!」
すぐに壁下のフィオにも伝える。
「フィオ!!!団長を早くリフトに!!!」
「はい!!!!」
ばたばたと医療物資を抱えてリフトへ駆けつける。
引き上げられて来たのは―――――、顔面蒼白で荒い呼吸を繰り返しながらリフトから降りて来る、エルヴィンだった。
そして―――――その姿に私は、体が硬直した。
エルヴィンがいつも私を褒めてくれる時に髪や頬を撫でる、私に教えてくれる時に資料を指さす、叱る時に頬を打つ―――――
その右腕が、なかった。
「――――エルヴィン…ッ…団長……!」
私の声に反応して、その目が私に向けられた。
彼は約束を遂げたことに対してか、安堵の笑みを見せて――――私を呼んだ。
「―――――ナナ………今、戻った………。」
沸き上がる涙を、医師である私が食い止めた。
取り乱さない。
最善を尽くして処置をしないと―――――このままだと、命が危ない。