第126章 代償②
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「おいおいおいおい……お前らこのまま逃げ通す気か?」
僅かに震えた声で、ジャンが問う。
「そりゃねーよお前ら……3年間一つの屋根の下で苦楽を共にした仲じゃねぇか……。なぁベルトルト。お前の寝相の悪さは芸術的だったな!いつからかみんなお前が毎朝生み出す作品を楽しみにしてその日の天気を占ったりした……。」
――――こんな時だっていうのに、ジャンの言葉から――――、楽しかったあの日々が鮮明に頭の中に蘇って来る。
「けどよ……お前……あんなことした加害者が……被害者たちの前でよく……ぐっすり眠れたもんだな。」
冷え切ったジャンの言葉に、俺の背中越しにベルトルトがピク、と反応した。
「――――全部、嘘だったのかよ?!どうすりゃみんなで生き残れるか話し合ったのも……おっさんになるまで生きて、いつか皆で酒飲もうって話したのも……全部……嘘だったのか?――――なぁ……お前ら……お前らは……今まで何考えてたんだ?!」
感情的に叫ぶのは、コニーだ。
そりゃそうだ。
俺だって同じ気持ちだ。
あの日々を思い出せば思い出すほど―――――、赦せねぇよ。
何も知らない俺達を、お前らは笑ってたのか?
敵であり――――大事な人間の仇と、面白おかしく毎日過ごしやがって間抜けだな、とでも……思ってたのか?
「――――そんなものわからなくていい。こいつの首を刎ねることだけに集中して。一瞬でも躊躇すれば、もうエレンは取り返せない。―――――こいつらは人類の害。それで充分。」
鬼気迫りつつもどこまでも冷たく冷静なミカサの声に、ベルトルトがついに言葉を吐き出した。
腹がちぎれそうな、
苦しみもがくような、
血を吐くような声で。