第125章 代償
「――――くそっ……!出やがったか……!」
視線の先には、沈みゆく夕日に向かって走り去る鎧の巨人の姿。その肩に、ユミルも乗っかってる。
「―――――ああ……まずい…!エレンが……連れていかれる……っ……!」
切羽詰まったミカサの言葉に目を凝らすと、その肩にはベルトルトとエレンの姿もあった。
どうやらエレンは拘束されているようだ。
大きな地響きとも言えるほどの足音を響かせて、俺達から逃げ去って行く。
またかよ。
殺すだけ殺しておいて。
この世界を恐怖のどん底に陥れておいて。
都合よくエレンだけ連れ去ろうなんて。
―――――こいつらが壁を壊していなきゃ、リンファは死なずに済んだ違う未来があったかもしれない。
門違いかもしれないってわかってる。
でも、どうしても思わずにいられねぇよ。
「――――――止まるな!!!馬を使って追う!!!騎乗しろ!!!――――殺してでも、止めてやる……!」
ようやく俺達のスピードに追い付いて来た駐屯兵団の奴らも引き連れて、立体機動から馬に移り最速でエレンを追う。
ここで逃がしたら――――人類は終わる。
エレンは、エレンの能力と意志は――――人類の勝利に欠かせないんだ。みんな、そう信じているからこそ命を張ってる。
調査兵団の俺達だってただならぬ覚悟でこの奪還作戦に臨んでいる。が、俺の横を並走する――――薔薇の紋章を背負ったおっさんが、鬼気迫る表情でそれを呟いた。
「――――絶対に、取り返す……!エレンは……俺の、命に代えても……!」
悪くない表情だ。
だが、この顔は――――今まで何度も見て来た。何かを、誰かを守るために、死ぬ奴の覚悟の顔。
こういう顔した奴は――――まるでそう望んでいるかのように、それに準じて―――――死ぬ。
俺はなにも言葉をかけることは、しなかった。