第125章 代償
長距離索敵陣形で戦闘を避けながら巨大樹の森を目指す。
もちろん駐屯兵団と憲兵団の奴らは付け焼刃的な知識のみでここに駆り出していることもあり、なにより絶対的に戦闘の実践経験がない。
巻くことも出来ずに、索敵として敵を見つけたと同時に食われる奴らも少なくなかった。
「―――なんだよ、これっ……!」
「冗談じゃねぇよ…っ!こんなの、自殺しに来たような、もんじゃねぇか!!」
「聞いてねぇよ!!死にたくない…っ…!」
「俺達を死に導く……!エルヴィン、この―――――悪魔!!」
あちこちから悲鳴と恐怖に苛まれて苦しむ声が聞こえる。
エルヴィン団長はこの采配をして――――この声を、どんな気持ちで聞いているのだろう。
兵士の命を指示一つで大量に失わせるこんな重責を涼しい顔で負いつつも、冷静で的確な判断ができるこの人は――――やっぱり怖いと、思う。
その腹の底には、俺と同じように恐怖や後悔も、抱えているんだろうか。
だとしたら――――ナナに惹かれるのもわかる。
あいつは生まれついての“癒す者”だ。
人の悪い部分を、荒んだ部分を探り当てて――――包み込んで、癒そうとする。
「――――この人を、ナナの元に―――――ちゃんと返す……!」
俺は小さく決意の言葉を呟いた。