第125章 代償
さっきの会話を最後に―――――もう戻って来ない人がいるかもしれない。
ミカサやアルミン、ハンネスさん。ジャンにコニー、クリスタ……。
そして――――エルヴィンでさえも。
震える身体を自分の両手で抱いて押さえつけて、深呼吸をする。
「――――失うかもしれない、に怯えない……!今できることを、やらなくちゃ。見てて、ミケさん……。」
私は負傷者をトロスト区に戻す搬送隊と、ここでみんなの帰りを待ち、引き揚げ時に援護に当たれる援護部隊を編制しなおして――――各所に指示を出した。
荷馬車の荷台にハンジさんをそっと運びこんだその時、彼女が少し目を開けた。
「――――ナナ……。」
「どうしました?ハンジさん。トロスト区でちゃんと治療を受けられますから。もう少しの辛抱です。」
その手を握って、顔を覗き込む。
「――――あの日出会ったジャックは―――――……ユミルだった。」
「え………?」
ジャック。
ウォール・マリア奪還作戦の裏で秘密裏に遂行された、奇行種捕獲作戦。あの時に現れた、知性を持っているとみられる巨人をハンジさんがジャック、と命名した。
「――――これが、何を意味しているのか………今はまだ、頭が……混沌と、してるよ……。」
「もちろんです……頭も打っています、恐らく……。今は考えないで。治ってから――――一緒に考えましょう?」
「――――ああ、そうだね……。」
「はい。」
ハンジさんはゆっくりと目を閉じて、呟いた。
「――――ナナ、調査兵団に来てくれて、―――――ありがとう。」
「………恐れ多いです。」
ハンジさんは優しい目をして私の髪をそっと撫でて、また目を閉じた。
日が傾き始める頃、搬送班は長い壁上の道のりをトロスト区に向かって出立した。
「――――どうか夜までに、エレンを―――――見つけて……。」
私は遠く、仲間が戦っているであろう場所の空に祈った。