第124章 白日
「―――そうか、彼らの目的地がウォール・マリアの向こう側だとするなら――――……」
「―――そう、そんな長距離を進む体力が残っていないと仮定してみよう。どこか巨人の手の届かないところで休みたいと思うんじゃないか?!巨人が動かなくなる夜まで!」
体のあちこちが痛むのだろう、ハンジさんは眉間に皺を寄せてぐ、と耐える素振りを見せた。
「――――夜までだ!夜までにこの森に着けばまだ間に合うかもしれない!!」
「――――理解した。ゆっくり休めハンジ。」
エルヴィン団長がハンジさんの背中にそっと手を添えた。
ハンジさんはそんなエルヴィン団長の顔を見て――――、安心したような笑みを浮かべた。
「エルヴィン団長。」
「なんだ?ナナ。」
「――――私はここに残ってもよろしいですか。」
「………!」
私の申し出に、エルヴィン団長はほんの少し驚いた表情を見せて――――、僅かに嬉しそうに笑んだ。
「――――ここで怪我人の治療とトロスト区までの搬送の指揮を執らせてください。」
「――――ああ。頼んだ。」
私の力を最大限に生かせるのは壁外での戦闘じゃない。
エルヴィン団長がなんの心配もなくエレンの奪還に赴けるように――――、1人でも多くの兵士を救って、今後に備えることだと、そう思った。
私たちの会話を聞いていたハンジさんもまた、どこか嬉しそうに、目を閉じたままその口角を上げて、微笑んだ。
「――――ハンジ、分隊長……っ……。」
横たわっていたモブリットさんが起き上がって、自分の守るべき上官が無事なのかを探すようにきょろきょろとしている。
「モブリットさん!動いちゃダメです!」
ハンジさんを抱き留めながらモブリットさんに声をかけると、私の方に顔を向けて、その腕に抱かれるハンジさんを認識した。
「――――大丈夫、ハンジさんは無事です。今から治療しますので、モブリットさんは安静にしていてください。」
「ナナさん……!良かった……っ……。」
モブリットさんは安堵した、という表情でごろん、とその場にまた横になって目を閉じた。