第123章 優等生
雪山での訓練。
私とダズとユミルは同じ班で――――ダズは怪我をして動けない上に日が暮れて、猛吹雪だった。
―――死を覚悟したのは人生で二回目だった。
その時になんとしてもダズを助けようともがく私に、ユミルは言ったんだ。
『ダズを助ける気も、自分が助かる気もないだろう。』と。
震えた。寒さにじゃなく、怖かったんだ。
そう、ダズを見捨てて自分だけ助かるなんて、あってはならない。
そんなの、“いい子”じゃない。
“いい人”じゃない。
“いい人間”じゃない。
例え自分が死んでも、仲間を守るの。
それがセオリーでしょう?
もしそれが叶わなくて共倒れで死んでも、きっとみんなは私を悪く言わない。
『最期まであきらめずに仲間を救おうとしたんだな。』
『クリスタは偉いな。』
そう言ってもらえる。
だって私は貴族の父が使用人の母に産ませた“要らない子”で――――、“必要としてもらう”ためには、努力しなきゃいけないの。
いい子で、良い人でなきゃいけないの。
元の名前を伏せてクリスタ・レンズと名乗ったその時に誓った。生まれ変わった私は、クリスタ・レンズは―――――誰からも愛されるいい子でいるんだって。
結局ユミルに叱責されたあと、ユミルとダズは姿を消した。
なんとか下山したその先にはすでにユミルと、治療を受けているダズの姿があって―――――どうやってあの状況を脱したのか、私は不思議でならなかった。
ユミルの言う“約束”は、その時に交わしたものだ。
『私がその秘密を明かした時……お前は、元の名前を名乗って生きろ。』
その時のユミルの言葉が思い起こされた。
そして―――――いつの間にか朝日が射して、私たちの長い長い夜が、明けた。