第123章 優等生
「全員逃げたんだよ!」
真実に近い想像は今のコニーにはあまりに酷だ。
錯乱しかねない。
僅かな希望を見せて、何とかこの場所から脱して壁の調査に行かなくては。
――――これは、ただ事じゃない。
私は震えた。
散々望んで来たじゃないか、見たこともない世界を見たいと。でもいざ自分の想像以上のことに相対してみると、こんなに恐ろしいのか。
だけど新兵の前で無様な姿は見せられない。
「巨人に食われて一切痕跡が残らないなんてありえないよ!誰も食われてないってことだ……家族も村の人もきっと……巨人を発見したのが早かったんだ。」
「そうか……!そうですよね……?!」
コニーは僅かな希望に縋るような目で私を見た。
――――良心の呵責に苛まれながら、頭の隅ではそんなことはありえないと思いつつ、その場しのぎの言葉を並べた。
「ああ……だから皆何時間も前にここを出たんだよ。既にウォール・シーナの内側にいるんじゃないかな?」
ゲルガーの視線が刺さる。
わかってる。
そんなことはきっとありえないんだって。
人間がいなかったとしたら、捕食対象がいない村をこんなにも破壊する意味がない。奴らの行動理論から外れている。
それにさっきゲルガーと目を疑った。
馬小屋の馬が全て繋がれたままそこにいた。巨人から逃げるのに、馬に乗らないなどあり得ない。
「――――とにかく、松明が揃ったらすぐに出発しよう。いいな、リーネ。」
「………ああ。」