第122章 密約
「――――ああ、では契約書の代わりの代替案を出します。」
「ちっ……立場をわきまえろよ若造が……!従わないのなら、お前ひとりくらい消すことだって造作もないんだぞ。」
「……おい待て、彼の力は必要だ……。」
「研究者など他にもいるだろう。」
「――――取引をするにあたって彼が一番だ……。」
僕の態度にイラついて本性を見せ始めた。
――――本当に面白いなぁ。思い通りに動いて、思い通りの言葉を吐く。僕はこういう無能が大嫌いだ。
「――――僕の姉は調査兵団団長補佐をしています。」
一瞬その場が静まり返った。
「ああ、そういえばそうだ……聞いた事がある。それがなんだ?」
「今調査兵団は窮地に立たされていると聞いた。もし団長がなんらかの処罰を受けるとしても――――僕の姉はただの補佐官であり、言われた通りに動いたにすぎない。なんの危険因子でもありません。――――調査兵団を裁く時には――――、僕の姉さん……ナナ・オーウェンズには寛大な処置を約束頂けますか?」
おっさん達は4人で顔を見合ったまま、安堵のような表情を見せた。
「――――いいだろう。約束しよう。」
「――――交渉成立、ですね。」
「ああ。くれぐれも早急に頼むぞ。」
「――――わかりました。」
こうして僕は王政の中心人物たちとの密約を交わして、再度馬車に揺られて家に戻った。
やはり契約書なんて後々形に残る何か、は残さないよな。奴らもそこまで馬鹿じゃない。ただそんなものが無くても――――どうにでもなる。飲んでもらえない条件提示のあとに、飲みやすい条件を提示するなんて、取引の初歩の初歩の心得だ。
バフッとベッドに倒れ込んで窓から見上げる月光は、青白く輝いていて――――少しの金を帯びて輝くその光が、姉さんの髪の色と似ていると思った。
「――――姉さん。僕は僕のやり方で姉さんを守るから―――――………。」
小さく誓うようにして月に向かって語り掛けて―――――そのまま眠りに落ちた。