第122章 密約
しばらく馬車に揺られ、王宮に着いたのは夜中近く。
初めて入った王宮は、ごてごてと煌びやかで僕の趣味に合わない。そんな中、大層に見える部屋に通された。
そこに王らしき人物の姿はなく、代わりに私利私欲の権化のような目をした、恐らく王政の中央でこの世界を牛耳っている奴ら。
「――――ロイ・オーウェンズ氏。」
「はい。」
「夜中に呼びたてて済まなかった。折り入って話したいことがある。」
「はい……?」
「疫病の特効薬の進捗は、どうかな?随分な国家予算を割いているんだ。その進捗を聞きたい。」
「ああ。実験段階にまで来てますよ。そろそろ人体へ投与する治験を開始しようと思っています。」
「そうか。効果は?実用レベルまでの完成度なのか?」
「そうですね。治験は必要ですが、問題なく使用できると思いますよ。あくまで念のための治験です。」
「頼もしい。それに当たって、ぜひ君と取引したい。」
「――――――………。」
彼らの“話したいこと”の本質に、内心ほくそ笑んだ。
つくづく期待通りのクズっぷりを発揮してくれるものだ。この取引の先になにがあるか、僕にはわかる。
――――だって同じようにクズのような所業を繰り返して来たんだから。ただ一つ、研究所の面々の顔が脳裏に浮かぶ。――――後ろ髪を引かれる想い、というのはこういうことか。
「――――悪い話じゃないだろう?」
「そう、ですね……ただ……口約束だけで信用しろなんて、言わないですよね……?」
「――――子供のくせに、抜かりないな。」
「よく言われます。ご存じの通り僕は色んな倫理に反することもやってきた。だから――――余計に疑り深いんですよ。」
「……何が望みだ?」
「――――ちゃんとした契約書をください。もちろん印も押してね。」
僕の提案に、そこにいた4人のおっさんたちは不機嫌な顔をした。そもそも人に頼み事をするときに足を組むなよ。礼儀のない奴らだな。
「それはできない。」
「ならいいですよ。特効薬の開発に精を出して、広く民間に普及させることに全力を尽くします。」
「…………。」
奴らの目が鋭く僕を睨んだと思った時、横の兵士が僕を捕らえようと身構える。