第122章 密約
ウォール・ローゼが突破されたら、世界は今後どうなる?
今でさえウォール・マリアの住民をとローゼに匿うことに限界が見えているこの状況で、マリアとローゼの住民をシーナに引き入れる?無理に決まってる。
引き入れた所で衣食住どれをとっても、1週間程度しか持たない。次に何が起こるのか―――――奪い合う争いだ。殺し合いが始まる。
それにここまで情報が回るのにも相当な時間がかかっているはず。もう相当数のローゼの人間が食われて死んだはずだ。そうなればまた疫病が息を吹き返す。
鳥かごのような狭い狭い場所に人間がひしめき合って、疫病が発生してみろ。それこそ巨人に食われるでもなく、殺し合うでもなく、目に見えない脅威に冒されて―――――――やがて人類は滅亡する。
いつか僕が望んだ未来。
それなのに今は背中がゾクリとするのは―――――家族や研究所のみんなと心を通わせるようになったからなのか。
そんならしくもないことを考えていると、門前がなにやら騒がしい。
「……なんでしょうか。来客……?」
「かな。」
ハルがパタパタと尋ねて来た相手を見に行ってからすぐ、焦った顔で戻って来た。
「ロイ様!」
「なに、どうしたの。」
「王宮から使者が来ています……!」
「……王宮……?」
なんだ、なんで僕に……?と思いながら門前へ向かう。やっと帰ってきたところなのに、面倒事はやめてほしいな、まったく。
「疫病抗体研究所の筆頭研究者であるロイ・オーウェンズ氏ですか。」
「はい。」
王宮からの使者という、無駄に豪勢だけど僕には悪趣味に見える服を纏った人間が馬から降りもせず、偉そうに書状を僕に差し出した。
「…………。」
僕は一応黙ってそれを受け取って、開いて目を通す。
「――――王の命令です。すぐに王宮に馳せ参じよ、と。馬車を用意しています。どうぞ。」
「どうぞって……僕に拒否権はないのですか?」
「―――ない。我々は王に生かされている立場。王の命に従うのは当然のこと。」
「………はいはい、わかりました。」
気に食わない。
王が今まで僕らに何をしてくれた?恩恵を受けた覚えもないけどね。そう思いつつも、とにかく行って要件を聞いてみるか、と馬車に乗り込んだ。