第122章 密約
「―――壁の破壊からの流入ではない可能性………?」
「――――やはりそう思うか?」
「はい、継続的に流入しているにしては、数が少なすぎます。単発的な発生だったかもしれません。もしくは――――ものすごく楽観視するならば、壁は破壊されている、ただしもう流入してくる巨人が、ウォール・マリア内にもほとんど残っていない、とか……。」
「――――それならありがたいんだがな。」
「ええ。」
「――――とにかくトロスト区のピクシス司令に最も情報が集まっているはずだ。急ごう。」
「はい!」
「え、おいっ……!まだ速度上げるのかよ……休憩も、なしで……!」
「どうなってんだよ調査兵団は……!」
「あの補佐官、よくついていけるな……。」
憲兵団が疲弊にあえぐ声を上げる。
私はほんの少しでも鼓舞できないかと、振り返って迷いのない笑顔と、強い意志を込めて声をかけた。
「―――皆さん、急ぎましょう。人類を救うのは――――私たちです!」
「……くそ……わかったよ……。」
私があまりに能天気に笑ったからか、憲兵団のみなさんもしぶしぶ気まずそうに俯いて、疲れた体に鞭を打って速度を上げた。
「―――さすが、癒しの女神の一言は効くな。」
その様子を横目で見ていたエルヴィン団長がふっと笑みを零した。
「本当に癒しの女神であれたらどれほど良かったか……今日ほどそう思うことはないです。」
「―――そうだな。」
唇を尖らせてはぁ、とため息をついて見せると、またエルヴィン団長の表情が少しだけ和らいだ。