第120章 一変
ナナバの身体を抱く俺の手に、そっとナナバが自身の手を重ねた。
「ねぇミケ。」
「ん?」
「――――どうせ賄賂渡すなら、もう少しだけ踏み込んでもいい?」
「――――歓迎する。」
ナナバが振り返って、俺の首に両腕をまわす。
ぐっと背伸びをして、唇を重ねてくる。
強く頼もしく判断が早く的確でリーダー気質。
誰からも尊敬される立派な兵士だ。
そのナナバが、この腕の中だけで可愛い“女”の顔を見せる。
唇を何度も合わせながら、その身体を寄せ合いながら――――ふと思う。
俺達のこの関係性は、きっと兵士ではないただの男と女として出会っていたとしたら、成立しえなかったものかもしれない。だから愛しさのあまりナナバを危険な任務に連れて行きたくない、など俺は考えたこともない。
――――危険だからこそ。
信頼しているナナバを側に置きたい。
戦った末に果てるなら、共に。
それが俺たちの“当たり前”だ。
「――――生きて帰ったら、続き、しよう?」
「――――ああ。結構溜まってる。」
「あはは!正直だね。」
「忙しかったからな。」
「――――付き合うよ、あんたの気が済むまで。」
ナナバが俺の胸に頭をとん、と預けて見せた甘い表情は、他の誰にも見せた事のない――――俺だけの顔だ。
――――愛おしい。
ナナバの美しい金色に輝く前髪を掬い上げて、その額に小さくキスをした。