第120章 一変
「――――どういうことだ?」
「――――少しだけ信じたかったんだ。巨人は人類の天敵で、そこには人類がみんな一致団結して戦っていけるんだって。」
「…………。」
「でも違った。結局は同族同士の―――――滅ぼし合いなんだろう。生き物の中でそんな愚かなことをするのは、人間しかいないんじゃないかって……そう思っただけ。」
「………ナナバは時々難しい事を言うな。」
「そう?性格曲がってるのかな。」
鏡のように窓ガラスが反射して、ナナバの表情が見える。
―――大事な女が傷ついている顔は、心を抉られる。
ナナバの方へと歩みを進めて、女にしては長身だが、俺よりは幾分小さく華奢なその身体を背中から包むように抱く。
「――――分隊長がこんなことして、いけないんだ。」
「――――いい。バレてももみ消す。」
「あはは。そんな事できるの?」
「エルヴィンに賄賂でも渡せばいい。」
ナナバの肩に顎を乗せて、その首筋に唇を寄せる。
「エルヴィン団長は賄賂なんて受け取らないでしょ。」
ナナバがくすくすと笑う。少しだけ、心がほぐれたようだ。
「いや。最近はもうナナにどっぷり嵌っていて――――、エルヴィン自身がイケない団長になりつつある。だから平気だ。」
「そうなの?―――あぁでも、わかる気がする。あの子は――――、きっとどんな深い心の傷でも、包んで癒すんだろう。欲しくもなるさ。重責を担っていれば担っているだけ、きっと。リヴァイととり合って揉めてんじゃないの?」
「――――みたいだが………どうなるかな。」
少し気がかりなのは、エルヴィンやリヴァイの傷を受け止めて癒すナナ自身は、どうやって自分を癒せるのかということだ。
エルヴィンとそれを分け合えているならいいが。
――――いずれ背負い過ぎて、壊れてしまわないか。
もしくは、エルヴィンを、リヴァイを失った時―――――ナナはどうなるのか。