第120章 一変
「ナナバ――――どうした?」
「………なにが?」
「様子がおかしい。動揺と不安の匂いがする。」
「――――ミケのその鼻はとても便利で羨ましいけど……、こういう時に、こんな情けない気持ちを隠せないってのは――――ちょっとツライね。」
ナナバが俺を見て薄くはは、と笑う。
「―――その情けない気持ちを、俺に話せるのなら―――――、聞きたい。無理にとは言わない。」
俺が言葉をかけると、ナナバはほんの少し天を仰いで、窓の方へ歩を進めた。窓の外を眺めながら思うのは、これまでのことか。これからのことか。
「―――あたしはさ、ずっと小さい頃から――――立派な兵士になるようにって、それはそれはお父さんに厳しく稽古ばっかつけられてさ。」
「……………。」
「それってなんのためなんだろう?って、考えたこともなかったんだ。当たり前すぎて。“人類”を“巨人”から守るため、戦うためだって。そして本当にその通りだった。壁外調査は辛いこともあったけど――――、信じて来たもののために、戦っているんだって誇りを持てた。――――5年前までは。」
ナナバが言い淀み、窓の淵にかけた手にぐっと力が入った。
不安と焦りと、胸中が渦巻き濁って行くような、そんな匂いがする。
「――――でも、今、私たちは仲間を疑ってる。仲間を監視しなくちゃいけない。」
「――――………。」
「巨人になれる人間が出て来て、それを炙り出して捕らえるための調査で沢山の仲間を失って――――そしてまた、そんな惨い経験をして帰って来た仲間を疑いながら見張るんだろう……?」
「――――……エルヴィンの判断に、俺も同意している。」
「うん、分かってるよ。ごめん。誰も責めてないよ。エルヴィン団長も、ミケ。あんたのことももちろん。わかってる。これが“人類”を守るための戦いなんだってことも。それが、シンプルに“対巨人”ではないということも。――――結局のところ、人間は人間でしかないんだね。」
ナナバの言葉の意味を計り兼ねて、聞き返す。