第119章 黙秘
「―――ハンジさん、お帰りなさい。無事で何よりです……!」
「ナナ。」
石垣に腰を掛けて沈みゆく夕日をぼんやりと眺めているハンジさんに私が駆け寄ると、ハンジさんはいつもからは想像できないような昏い表情を私に向けた。
「――――この後の会議にはハンジさんも出席されるのですよね。」
「ああ………。」
私はハンジさんの隣に腰かけると、ハンジさんが口を開くのを待った。話したくないなら、それでもいい。
ただ、吐き出したい不安やもどかしさがあって――――、もし私に話してくれるのなら、ちゃんと聞いて一緒に考えたい。
そんな想いが伝わったのか、ハンジさんは小さく言葉を零した。
「――――ナナ、私たちの敵とは、何なんだろうね。」
「………私たちの、敵…。」
「巨人の謎を解き明かせば、人類の未来は拓かれると思っていた。けど―――――私たちが死にもの狂いで仲間を犠牲にし続けて得た僅かな情報を……いやそれよりももっともっとこの世界を揺るがすような重大な事を、持っているのに隠している奴らがいる。そしてそれを黙認してるってことは――――王政だって、知ってるはずだ。」
―――とても、辛そうだ。
今きっとハンジさんの頭の中では、今まで死を見届けて来た仲間の顔が浮かんでいるんだろう。そしてハンジさんが費やした日々も、努力も、全てが――――無駄だったのかもしれないと、得体の知れない敵が怖いと思うのは当たり前だ。
「………壁の中の人類が手をとりあって自由のために巨人に挑む、という構図ではないことだけは、確かですね………。」
「そうだね……。」
「――――この世界を全てひっくり返す、おつもりかもしれません。」
「え………?」
「――――エルヴィン団長は。」
俯き加減で、顔だけハンジさんの方へと向ける。