第119章 黙秘
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「――――うん、体にはなんの異常も無さそう。安静にしてれば目を覚ますと思うよ。」
「……ありがとうナナ。」
「―――私もエレンに付いていたいけど……、戻らないといけないから……ミカサ、アルミン、エレンをお願いね。」
「はい、ナナさん。」
「――――もちろん、そのつもり。」
2人の頼もしい返事に、私は憲兵団支部の地下室から地上に上がった。すると先ほどまでいなかったハンジさんの姿があった。けれどその様子はいつもとは違う。
――――初めて見る、ハンジさんのあふれ出すような負の、怒りの、憤りの感情。
私を見つけたのはモブリットさんだ。モブリットさんが私に駆け寄ってきてくれた。
「――――ナナさん。」
「モブリットさん。ハンジさんになにか?!怪我、とか……!」
慌てる私をモブリットさんは冷静に制した。
「いえ、分隊長に怪我はありません。ただ――――、あの壁の中の巨人について何かを知りえているはずのウォール教のニック司祭が、その詳細について全く口を割らず………、これまでの仲間の犠牲と、我々調査兵団の存在意義についてすら疑問視せざるを得ない状況に、相当な困惑と憤りを感じていらっしゃいます。」
「――――それは………無理もない、ですね………。」
「――――怖い、と。」
「え………?ハンジさんが………?」
その言葉に驚いた。
あのハンジさんが、好奇心の塊であるハンジさんが、怖いと口にした……。私が尋ね返すと、モブリットさんは小さく頷いた。
「―――ナナさん、良ければ少し側にいて貰えますか。」
「……お話してきます。ありがとう、モブリットさん。」
モブリットさんは少しだけホッとしたような顔を見せてくれた。