第119章 黙秘
それからすぐ、女型の逃走阻止から壁の補修の指揮へと移っていたハンジが戻った。
「――――エルヴィン。今戻った。」
「――――ハンジ。よく戻った。壁の日光遮断の指揮もご苦労だったな。」
「…あぁ、いや……。」
ハンジが珍しく呆然と、その目を伏せた。
衝撃的すぎたのだろう。私自身、総毛立った。
なぜなら、たまたま壁が崩落したそこにいた、という可能性は限りなく0に近い。ともすれば―――――この壁全てに―――――超大型巨人が潜んでいる………いや、潜んでいるのか―――――、そもそも奴らを使って壁を作ったのか。
「――――エルヴィン。ウォール教のニック司祭は何かを知ってる。が、彼の意志が固く――――、何も口を割らない。」
「――――ほう。拷問にでもかけてみるか?」
リヴァイが腕を組んで朱色の夕日が照らす街角の瓦礫の山を見つめながら零した。
「それもいいけどね………とにかく私は今……色んな感情がせめぎあって爆発しそうだ……。」
「…………そうか………。」
「――――私たちは、私たちのかつての仲間は―――――、一体なんの為に死んだ……?」
「――――………。」
「私たちが壁の外に自由を求める一方で―――――、頑なにこの世界の真実を知っていて隠蔽しようとしているのは、何なんだ………!誰が、何のために………!!人類の未来を切り開くための私たちのこれまでの犠牲は、全て茶番だったのか………?!」
ハンジが感情的になるのは珍しいが――――、ごく当たり前のことだ。この壁が全て巨人で出来ているとしたら、我々は巨人によって守られ、生かされていたことになる。
巨人を使ってこんなことができうる存在の、確かな意志によってこの構図が成り立っている。
だがだからと言って、壁の外の巨人や、女型や鎧、超大型も全て同じ属性の巨人だと言い切るのも乱暴だ。
とにかく今確かなことは――――、
“巨人”の力を操れる人間が存在し、その一部が我々壁内の人間を脅かそうと潜んでいるという事実。
壁に巨人が埋まっているという事実。
結局のところ、それしかわかっていないのだから。