第118章 溜飲 ※
私が随分思いつめたような顔でもしていたのか、エルヴィン団長が手に持っていた令状をぱさ、と机に置いた。そしてループタイを外して、伸びをする。
「――――……お疲れでしょう、もう遅い……。調査から戻ってから……またろくに休んでない……。」
「ああ………調査兵団団長として執務に当たれるのも、あと少しかもしれないと思うと名残惜しくてね。ついつい仕事に手を出してしまうんだ。」
エルヴィン団長が自嘲めいた笑いを零す。
「冗談でもそんなこと言わないで……!」
「――――ナナ。」
「いや………いやです………。」
俯いて小さく首を横に振る。エルヴィン団長は忙しいのに。
困らせたくない。
でも、今の私は、目の前で多くの仲間を失うことを見過ぎた私は――――どうしても怖かった。
「――――休もうか、ナナ。」
「………え………。」
「ハンジがよく言うんだ。“思考が悪い方に向く時は、休養が必要だよ”ってね。根を詰めるのもいいが、少しの休養はやはり必要だ。俺も、君も。」
「…………。」
「約束を果たそう。生きて帰って来たら、その生を確かめ合おうという約束を。」
調査兵団の団長から、整った髪を乱して私のエルヴィンに戻る。
乱れた金髪の隙間から覗く蒼い瞳が私を誘う。
この、澄んでいるのに深くて複雑で、色んな色を宿す目が好き。
何かを企む少年のような目も、色欲を濃く宿した魅惑的な目も。