第117章 戦慄②
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俺が怪我することが怖いのか。
――――俺を失うことを、恐れてるのか。そんなにも強く想っているという顔を、仕草を、するんじゃねぇよ。
――――付け込みたくなる。
大勢の仲間を救えなかったこと、俺を信じてついてきたあいつらの死の瞬間を想像すると――――柄にもなく息苦しくなる。この胸中に渦巻く、俺を貶めるどろどろした悪いモノを、どこかに吐き出したくてたまらなくなる。
目の前のナナをこの厩舎にでも引きこんで、無理矢理押さえつけて――――その蟠りや欲を全部ぶつけて、お前に受け止めて欲しい。
お前にしか、できない。
「――――リヴァイ、さん……?」
俺が良からぬ欲望を渦巻かせていることに気付いたのか、足の包帯を巻き終えたナナが俺の顔を覗き込んだ。
「なんでもない。」
「そうですか……。終わりました。しばらく激しい運動はしないでください。」
「…………。」
「………リヴァイさん?やっぱり、どこか――――。」
「――――良からぬことを考えてた。」
「えっ。」
「――――そこらに無理矢理引きこまれて抱かれたくなきゃ、俺を癒せ。今回ばかりは――――少し……疲れた。」
「――――はい………。」
誘うようにして片手をナナに差し出すと、一瞬驚いた顔を見せたものの――――、ナナはすぐに理解した。
立ち上がって石垣に腰かけたままの俺の前に立って、俺が伸ばした腕の中に収まると、その華奢な両腕でふわりと俺の頭を胸に引き寄せて抱き締めた。
――――ナナの鼓動と匂いは、心の内の棘を丸く柔らかに溶かしていく。
いつもよりナナが俺を強く抱いてその顔を俺の首に埋めるのは、ナナ自身もこの調査で負った心の傷を癒そうとしているからなのだろう。