第117章 戦慄②
――――エルヴィンの進退が決まる今後は、調査兵団にとって正念場だ。下手すりゃ解体させられることだってあり得る。
「――――ナナ。」
「はい………。」
「――――むしろお前の戦いはここからだろう。」
「……………。」
「下手すりゃエルヴィンがただじゃすまない。――――お前の頭と根性の見せどころだ。あいつはもうお前なしじゃ飛べない腑抜けだからな。」
「そんなことないですよ。エルヴィン団長は私がいなくても――――。むしろリヴァイ兵士長です、それは。お二人はお互いの片翼を担って―――――2人でこの調査兵団を――――どこまでも導いてくれるから。」
俺の言葉に、ナナが小さくふっと笑う。
自覚が足りねぇな。
確かにナナがいなくなってもエルヴィンは進むことをやめないだろう。
だが、あいつも俺も、唯一その翼を休められるのは――――――お前のこの柔らかで温かな腕の中だけだ。
「――――まだここからだ。まだ終わっちゃいない。――――あいつらの死を、絶対に無駄にしない。あいつらの死に意味を持たせるのが、俺達だ。」
「はい………リヴァイ兵士長……!」
俺の決意に似た言葉に呼応するように、ナナは一層その腕の力を強めた。
いくらこんな約束めいた言葉を交わしたところで―――――何の意味もないこともわかってる。約束というものが本当に効力を発揮するなら、ペトラはあんな無残に死にはしなかっただろう。
この腕の中の柔らかな身体が、叩き潰されて引きちぎられて―――――、あの日のイザベルやファーラン、今日のあいつらのように……屍になって転がるのは、明日かもしれない。
そう思うと、ナナの背中に回した腕が恐怖で震える。
俺はその震えをナナに悟られないように力を込めて――――――
強く強く、その身体を抱いた。